前回の記事では、審判員同士が試合中に使っている「シグナル」について書きました。
インフィールドフライの場面や、タイムプレーが考えられる場面など、審判員は声だけではなく、手の合図を使ってお互いに情報を伝えています。
私自身も、
「審判員同士で、こんなに細かく情報を共有しているんだ」
と知って、シグナルを覚えるようになりました。
ところが、シグナルを覚えたばかりの頃、とんでもない失敗をしてしまいました。
「この場面では、このシグナルを出します!」
ある試合のクルーミーティングで、私は審判員のみなさんに、
「この場面になったら、このシグナルを出します」
と確認しました。
もちろん、自分としては、
「今回はちゃんと準備できた!」
と思っていました。
そして、いざ試合が始まります。
すると、なんと本当に、そのシチュエーションがやってきました。
「来た!」
私は、確認していた通り、3塁へカバーに入るシグナルを出しました。
これで準備はOK。
……のはずでした。
シグナルを出したのに、なぜか動かなかった
その後、本当に3塁へカバーに入るような打球が外野へ飛んでいきました。
ここで私は、3塁へ向かって走るはずでした。
ところが――。
私は、その場に立ったまま、ボールを目で追っていただけでした。
自分でも、なぜそうなったのか分かりません。
シグナルは出した。
打球も見ていた。
でも、肝心の「動く」ということが、すっぽり頭から抜けてしまっていました。
今思えば、
「シグナルを出したから、自分の仕事は終わった」
くらいの感覚だったのかもしれません。
クルーに助けてもらいました
当然、そのままでは3塁のカバーがいません。
すると、機転を利かせてくれたクルーの審判員が、すぐに戻ってきて3塁のカバーに入ってくれました。
おかげで、試合は何事もなく続けることができました。
私は何も起こらなかったことにホッとしましたが、試合が終わってからクルーで振り返りをすると、この出来事が話題になりました。
すると先輩から、
「来てくれると思ったので、その場にいたままだから戻ってきましたよ~」
と、笑いながら言われました。
みんなで笑いましたが、私は、
「本当にそうだ……」
と、改めて反省しました。
シグナルは「出して終わり」ではない
この経験で、私は大切なことを学びました。
シグナルは、ただ合図を出すためのものではありません。
その合図を見て、自分もクルーも次の動きをするためのものです。
つまり、
「シグナルを出す」→「そのシグナルに合わせて動く」
ここまでがセットだったのです。
私はシグナルの意味を覚えることばかりに意識が向いていて、その後に何をするのかまで頭に入っていませんでした。
前回の記事で書いた、
「審判はクルー全体で試合を見る」
ということを、身をもって経験した出来事でした。
先輩から教えてもらった「3流・2流・1流」
そして、先輩からこんな言葉も教えてもらいました。
「メカニクスを覚えていないのは3流。
覚えて、その通りに動こうとするのが2流。
1流は、クルーがメカニクス通りに動かなかったときに、カバーできる柔軟性を持つこと。」
これを聞いた私は、
「私はまだまだ3流だな……」
と思いました。
まずはメカニクスを覚える。
そして、覚えた通りに動けるようになる。
さらにその先には、もし誰かが予定通りに動けなかったとしても、別の審判員がカバーできるような判断力と柔軟性がある。
審判の世界には、そこまで考えた連携があるんだと知りました。
助けてもらうだけではなく、いつか助けられるように
このときの私は、クルーの先輩に助けてもらいました。
でも、いつまでも助けてもらってばかりではいけません。
いつか自分も、
「誰かが動けていない」
「予定していたカバーに入れない」
という状況が起きたときに、
「じゃあ、自分が行こう」
と判断できる審判になりたいと思いました。
そのためには、まず基本のメカニクスをしっかり覚えること。
そして、実際の試合で何度も経験すること。
まだまだ失敗ばかりですが、こうやって一つずつ覚えていくしかないんだと思います。
失敗して初めて分かった「連携」の大切さ
今回の失敗は、今思い返しても少し恥ずかしいです(笑)。
でも、あのとき失敗したからこそ、
「シグナルは出して終わりじゃない」
「審判は一人で試合を見ているわけではない」
ということを、本当に実感できました。
審判を始めたばかりの頃は、自分の判定で精一杯です。
「間違えないようにしなければ」
「ちゃんと動かなければ」
と、それだけで頭がいっぱいになります。
でも、少しずつ経験を積んでいくと、
「自分の動きが、クルー全体の動きにつながっている」
ということが分かってきます。
私もいつか、誰かを助けられる審判になれるように、これからも一つずつ経験を積んでいきたいと思います。
次回は、今回も出てきた**「カバー」について、実際の試合で誰がどこに動くのか、初心者の頃に私が戸惑った経験**を書いてみたいと思います。


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