審判を始めたばかりの頃は、分からないことばかりでした。
先輩に教えてもらい、失敗して、また教えてもらう。
これまでの記事でも、そんな経験をたくさん書いてきました。
シグナルを出したのに動けなかったこともありました。
反対に、誰もカバーできていないことに気づき、とっさに自分が動けたこともありました。
そんな経験を重ねていくうちに、少しずつですが、
「自分も審判らしくなってきたかな」
と思えるようになっていました。
そんな頃、私のところに後輩が入ってきました。
今度は自分が「教える側」に
先輩から、
「いろいろ教えてあげてね」
と、後輩の指導を任されるようになりました。
少し前まで、自分が先輩の後ろをついて歩き、
「次はどこに動けばいいんですか?」
「今の判定はどうでしたか?」
と聞いていたのに、今度は自分が教える側です。
これまで先輩から教えてもらったことや、自分が失敗して覚えたことを、今度は自分なりの言葉で後輩に伝えるようになりました。
そして、実際の試合では、
「こうやって動くんだよ」
と、自分の審判の姿を見てもらうこともありました。
正直なところ、この頃の私は少し自信もついていました。
ところが、そんな私に先輩から思いがけない一言がありました。
「基礎ができていないよ」
「えっ?」
ちょっとショックでした。
「ハンズオンニーができていないよ」
私が1塁塁審をしていたときのことです。
打球がサードへのゴロになりました。
三塁手が捕球し、1塁へ送球します。
私は1塁でのアウト・セーフを判定するために準備していました。
自分では、いつも通り判定しているつもりでした。
ところが、私の姿を見ていた先輩から、
「ハンズオンニーの姿勢ができていないよ」
と指摘されたのです。
「ハンズオンニー」とは、その名の通り、両手を両ひざに置いて、体を安定させてプレーを見る姿勢です。
審判は判定するとき、目線がブレないように、しっかり止まってプレーを見ることが大切です。
イメージとしては、カメラを三脚で固定するようなものです。
足で土台を作り、両手をひざに置いて体を安定させる。
その状態でプレーをしっかり見てから、判定する。
以前の記事で書いた、
「GO・STOP・CALL」
の「STOP」にもつながる基本の姿勢です。
ところが私は、いつの間にかその基本がおろそかになっていました。
「できるようになった」と思った頃が怖い
審判を始めたばかりの頃なら、
「正しい位置に行こう」
「しっかり止まろう」
「姿勢を作ろう」
と、一つ一つ意識していました。
ところが、試合数を重ねて慣れてくると、そこまで考えなくても体が動くようになります。
それ自体は成長なのかもしれません。
でも、その一方で、
「これくらいで大丈夫だろう」
という気持ちも、知らないうちに出てきていたのだと思います。
しかも、このときの私は後輩に教える立場です。
後輩には、
「基本が大切だよ」
と話している。
その自分が基本をおろそかにしていたのですから、少し恥ずかしくなりました。
後輩に教えることで、自分も教えられた
でも、今振り返ると、後輩が入ってきたことは、自分自身を見直す良いきっかけになりました。
もし一人で審判を続けていたら、
「自分はもうできている」
と思ったままだったかもしれません。
人に教えようとすると、
「自分は本当にできているのか?」
と改めて考えるようになります。
そして、先輩に自分の姿を見てもらうことで、自分では気づかなかった癖にも気づくことができました。
教える側になったからといって、教わることがなくなるわけではない。
むしろ、人に教えるようになったからこそ、基本の大切さが以前より分かるようになった気がします。
審判は、どこまでいっても「基本」
今回の経験で改めて感じたのは、
審判は、どこまでいっても基本に忠実であることが大切
ということです。
正しい位置へ動く。
しっかり止まる。
安定した姿勢でプレーを見る。
そして、見てから判定する。
どれも審判を始めた頃に教えてもらったことです。
でも、経験を積んだからといって、必要なくなるわけではありません。
むしろ、慣れてきたときほど、
「自分は基本通りにできているかな?」
と振り返ることが大切なのかもしれません。
同じクルーでも、経験はそれぞれ違う
そして、後輩に教えるようになって、もう一つ感じることがありました。
審判のクルーには、いろいろな経験を持った人がいます。
長年審判をしている人。
始めたばかりの人。
選手経験が豊富な人。
私のように、大人になってから本格的に審判を始めた人。
そんな経験の違う人たちが、同じ試合で一つのクルーとして動きます。
だからこそ、メカニクスを覚えるだけではなく、お互いを知ることも大切なんだと思うようになりました。
普段の何気ない会話から、
「この人はどんな考え方をするんだろう」
「どんなジャッジをするんだろう」
と知っていく。
そうした積み重ねが、試合中の連携にもつながっていくのだと思います。
審判は、一人で判定しているように見えて、実はクルーで支え合っています。
後輩に教える立場になったことで、私は改めてそのことに気づかされました。
そして、経験の違う審判員同士が、一つのクルーとしてうまく連携するためには何が必要なのか。
このことについても、実際の試合を通して考えさせられる出来事がありました。


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